Re:co Symposium #1 "The Future for Specialty Coffee" by Ric Rhinehart
コーヒーの世界では、Re:co Symposiumというシンポジウムが開かれています。
この中では、スペシャルティコーヒーの進む方向性や焙煎技術、フレーバーに関する科学的分析、経済分析など、幅広く議論、研究発表がなされていて、とても勉強になります。
今後、ブログの中で、Re:co Symposium ##として、業界動向、コーヒーの生産環境での研究、経済学的知見から見たコーヒー産業など、順を追ってご紹介していきたいと思います。
第一回の今回は、SCA(Specialty Coffee Association / スペシャルティコーヒー協会)のエグゼクティブディレクター/常務理事 Ric Rhinehartのトークをご紹介していきます。
彼は今回の話の中で(A)現在のコーヒー生産におけるコンソリデーションリスク(集中リスク)について触れ、解決策を示す前に(B)実際の生産者が受けている経済的恩恵/負担について具体的な数値を用いて紹介しています。現状を考慮したうえで、(C)どのようにして生産量の増加を計っていくか、(D)生産国がそれに対して成功していくために必要な要素とは、(E)また我々コーヒー業界に従事している者が担う役割とはなにかについて言及しています。
(A)生産国の集中リスク
現在、コーヒーの生産量はブラジルとベトナムの上位2か国で全体の57%を占めており、上位5か国まで含めると全体の75%を占めています。つまり、仮に気候変動などにより上位5か国のうちどこか1か国の生産量が激減した場合、コーヒーの供給量に大きく影響が出てきてしまいます。
ICO(International Coffee Organization)によれば、2017年の時点で、生産量と消費量の差は僅かになってきており、今後さらに消費量の増加を予測しています。生産量増加のために新たな農地開拓を行ったとしても、別の気候変動を引き起こす可能性もあり、良い結果が生まれないかもしれない。
(B)現状:生産者の実情
コーヒー生産量を1世帯あたりでみてみると、コーヒーで生計を立てている人たちがあとどの程度生産する必要があるのかを考えるきっかけを与えてくれます。
例えば、コロンビア、メキシコ、ウガンダ、ブラジルについて、1世帯当たりの【132lb(60kg)での袋数 / コーヒー豆重量 / 昨年の平均売買価格($/lb) / 年間売上額⇒farmgate price(農家の最終受取額) / 法的な年間最低賃金 / 所得-最低賃金】を記載してみる。
・コロンビア:【18袋 / 2,376lb / 1.4$/lb / 3,326$⇒2,661$ / 3.240$ / ▲579$ 】
・メキシコ:【11袋 / 1,452lb / 1.4$/lb / 2,032$⇒1,220$ / 1,788$ / ▲568$ 】
・ウガンダ:【2.5袋 / 330lb / 1$/lb / 330$⇒231$ / 267$ / ▲36$ 】
・ブラジル:【204袋 / 26,928lb / 1.2$/lb / 32,314$⇒29,082$ / 3,360$ / 25,722$ 】
*ただし、年間最低賃金というのは、その土地で生活するのに最低限必要な賃金をいい、また、年間所得及びFarmgate Priceに関しては、グロスの所得であり、コストに関しては一切考慮していない。
*ウガンダの最低賃金に関しては、公式な発表がなく、国連の研究によるデータを参照。
(C)生産量の増加
つまりは消費量の増加を促すこと。消費量が増えるには、人々がコーヒーをより好きになるきっかけを作ること。その為に、商品価値を挙げる必要があり、商品価値の向上には生産者と直接的なコミュニケーションをとることも大いに有効である。現代社会ではSNSなど、コミュニケーションツールは無数に存在する。
このように生産国から消費国へのValue Chainsをより効果的な物に変え、市場の循環を促すことが重要。
(D)生産国の成功に必要な物
3つのポイントが大切になってくる。
- Strong Institutions : 生産者の声の集合体。
- Strong Internal Market : 国内消費が大きくなれば、為替変動によるストレスの軽減、安定した取引量が見込める。
- Destination Marketing : ターゲット層、価格水準、消費者ニーズ、マーケットでの競争力などを事前に調査した上での効果的な広報活動
(E)我々の役割
生産者と消費者を結び付けることがわれわれコーヒー業界に従事している物の役割になる。
そして、業界の発展においては、Increase Value, Long Term Outlook, Collaborateが必要になる。
コーヒーの価値を上げ、長い視野に立ち生産者との関係を築き、一般消費者へコーヒーの良さを伝え結びつきを生み出す、このようにして生産者及び消費者にとって良い形でそれぞれを結び付けて行きましょう。
以上が彼のセッションで述べられていたことの主なポイントかと思います。
(Cに関しては、理解が追いついていないのですが、)
Bにおける数値に関しては、標準化されているため、その国の中でも幅はあるかと思います。また、コーヒー以外の作物を栽培しているケースも多いでしょう。ただ、そうはいってもコーヒー産業への従事だけでは、最低賃金すら満たせない現状があり、ここからコストを差し引くと、より厳しい生活環境ということは容易に想像がつきます。
今後、コーヒーの消費量が増えるという予想がなされている中で、如何にして消費量を上げ、かつマーケットへのアクセスを維持し、品質に見合った対価を得続けるか、今後他のセッションを元に、まとめていきたいと思います。
一定の品質を保った状態でのスペシャルティコーヒーマーケットへのアプローチとそうでないコマーシャルコーヒーマーケットへのアプローチをうまく使い分け、より効率的なコーヒーの販売ができるのかどうか、よりサプライチェーンをブレイクダウンしながら考察を進め、また生産エリアでの品質管理向上への取組み方法についても、見ていきたいと思います。
Thank you.